クランクアップ会見


今日は『夕凪の街 桜の国』のクランクアップ会見がありました。決して大きな規模の作品ではありませんが、たくさんの報道陣の方々がお越しくださりました。
田中麗奈さん、麻生久美子さん、藤村志保さん、中越典子さん、堺正章さん、原作者のこうの史代さんと華やかな会見でした。報道陣の方々には原作本とプレスシートが配布されました。
僕は記事にする前に、是非原作を読んでくださいとだけお願いしました。
明日のスポーツ紙やワイドショーでも、決して大きく扱われないとは思いますが、一人でも多くの人にこの原作を知って貰えたらと思います。
編集がほとんど終わりました。これからCG作業と音楽作りが始まります。
佐々部清監督公式サイ内ト 「ほろ酔い日記」より)

なお、cows様のブログに、会見の詳細が掲載されています。以下、そこからの抜粋。


松下 順一(アートポート代表)
「この企画が弊社の中で上がりましたのが、約2年前の秋頃でした。こうのさんの原作を拝見して大変感動いたしまして、すぐさま社内を上げてで映画化に向けて動き出しました。監督として佐々部さんからOKをいただいた段階で映画の内容が見え始め、さらに役者の皆さんには、本日壇上にいらっしゃいます、田中さん、麻生さん、中越さん、藤村さん、堺さんにOKをいただいたことで、いよいよ全容が見え初め、たいへん安心いたしました。この映画自体は、被爆後の家族愛、兄弟愛、恋人どうしの恋愛といった人間愛の映画です。作品に関しては来年の1月にすべて完成する予定でございます。」

加藤(企画プロデューサー)
「ただいま編集とCG等の製作を進めているところでございまして、その後、(2007年)5月にはカンヌ映画祭への出品を考えております。それから夏に向けて、広島を中心とした全国キャンペーンを行い、8月末に全国拡大ロードショーとして拡げて参りたいと思っております。」

スポーツ新聞の記事によると、”カンヌ出品のための審査をまず受ける”ということです。
公開規模が小さい分、海外の映画祭で何らかの注目なり評価なりを受け、”箔をつけて”国内公開に繋ぐ…というのは、北野武監督の映画と同じですね。


こうの史代(原作)
「今朝ここへ来る時に空を見たら綺麗なウロコ雲が出ていて、クランクイン前のお払いで撮影所の前の神社に行ったときにも綺麗な雲が出ていて、この映画は恐らくたくさんの目に見えない魂に支えられているんだろうな、と思いました。いい映画になると確信しております。なんか、こんな原作で申し訳ないんですけれど、本当にありがとうございます。よろしくお願いいたします。」

”雲”のくだりは常套句としての先生のユーモアだと思いますが。本音は「まだ観ていないんで判りません」というところだったりして…。


田中麗奈(出演/石川七波)
「この話を読んでいる時に、ほんとに一瞬の原爆で何年も何十年も苦しんでいる人がいることを知って胸が痛みましたし、同時に兄弟や家族の繋がりや、明るく生きていくことの素晴らしさなど、いろんなことを学びました。この映画の現場を通して私もいろんなことを学んだので、多くの日本の方にも見てもらいたいし、世界の方々にもこういうことがあったんだよ、こういうことを通してみんなが苦しんだり学んだりしてきたんだよ、ということを見てもらいたいです。まだ作品の出来上がりを見ていないんですが、私の想像以上にいろんなことを感じられる作品になっていると思うので、私もすごく楽しみです。」

麻生久美子(出演/平野皆実)
「私はこの原作を初めて読んだ時に、この皆実(みなみ)という女性にとても惹かれてしまい、この役はどうしても演じたいと思いました。今まで女優と言う仕事をやってきた中で、『この役は私が絶対演じたい』と思ったのは初めてのことだったので、なんだかすごく不思議な縁を感じています。けれど実際に演じるにあたっていろいろ考えた時に、この皆実という女性は私自身から凄く遠いな、と思って、どうしたらその距離を縮められるのか、すごく悩んで、考えて、勉強もしたんですけど、それで結局行き着いたのは、彼女の気持ちを理解するということよりも、その理解しようとする姿勢や気持ちがいちばん大事なんじゃないかな、という思いでした。この作品がたくさんの人に愛され、100年後も200年後もずっと見続けてもらえる名作になるように祈っています。どうかよろしくお願いいたします。」

中越典子(出演/利根東子)
「本当に伝えたいことはいっぱいあるんですが、私が撮影で広島入りしてまず感じたことは、広島の空気の東京とはまた違った澄んだ美しさであったり、空の広さだったり、撮影中にみんなで一緒に眺めたちょっとぼやけた夕陽だったり、そういうものに凄く感動したんです。そういうものにいろんなパワーがあるんじゃないかと私は思いました。佐々部監督とは『四日間の奇蹟』以来の2回目だったんですが、その再会は嬉しい反面、私は一年でどれだけ変われたんだろうという不安もあって、複雑な気持ちもありました。けれど、なんていうんでしょうか、不思議なくらいに気持ちがよかったんです。凄く哀しいお話で、人間が作り出してきた辛い歴史といったものを感じる物語なのに、それが希望に変わる、そういう明るさを感じて、私自身、とても刺激的でとても前向きな気持ちにさせてくれた作品となりました。ひとりでも多くの方に見ていただいて、いろんなことを感じていただいて、そして前向きに上を見上げて生きていってほしいと思っております。」

失礼ながら、麻生久美子は実は大したことは言っていません。”皆実”という言葉を他のどんな役に置き換えても通じるようなコメントです。


堺正章(出演/石川旭)
「今回、石川旭という役をやらせていただきました。映画の中で、私の家族は全員が被爆して、その多くが短い命を散らせていったという中で、私の役だけが関東に疎開していて被爆をまぬがれたと、そういう役なんです。被爆してこの世を去った方たちの苦しみも当然でございますが、それを受けなかった一人の男というのが、どういう気持ちで昭和20年の8月6日の報を疎開先で知り、それから60代まで生き続けてきたのか、という役どころなので、最初は複雑な気持ちに包まれ、どうやって演じればいいんだろうと悩んだんですが、実際に佐々部監督とお会いしたら「佐々部イズム」と申しますか、非常にまっすぐな方で、ああ、この方に着いていけばだいじょうぶだろうと、心の拠り所を持つことが出来ました。世界で唯一の被爆国である日本がそれから61年経って、みんながどんな気持ちで生きているんだろうか…中には怒りをそのまま拳に振り上げて表現した方もいらっしゃいますが、本当は言いたいんだけど言えないジレンマや悔しさといったものをずっと抱えてきた方もいらっしゃると思います。この映画はそんな気持ちの集大成だと思います。日本だけでなく、ぜひ世界の方々にも見ていただきたいです。よろしくお願いいたします。」

藤村志保(出演/平野フジミ)
「広島で被爆した方々、長崎で被爆した方々、その方たちの気持ちを理解することは、どんなに理解しようとしても限界があると思っております。私の演じる役も何一つ恨みがましいことを言わずに生きてきた人間ですけれども、一言、映画全体のメッセージになるかもしれませんが、「原爆で死ぬのを見るのはもう嫌なんよ…」と語るシーンがあるんです。これは特別に強いメッセージではないのかもしれませんが、私はこのセリフが、フジミがフジミとして生きてきた中での大事なメッセージなのだと思い、そのときのシーンは、いまでもありありと思い出しますが、監督のご指示、そして私の気持ちをとてもとても大事にして演じたいと思いながら演じさせていただきました。監督とご一緒させていただくのは『カーテンコール』に続いて2度目でしたけれど、先ほど堺さんがおっしゃいましたように、まっすぐな、そしてなんとも言えない優しさのある人間性がこの映画の中に反映されて、わたしたちに、世界の人たちに、生きていくことの大切さを訴える映画になると思っております。皆様もどうぞ宜しくお力添えください。」

マチャアキと藤村さんは、さすがに年の甲ですね。生身のコメントの重みがあります。


佐々部清(監督)
「撮影前のスタッフに対して僕は『この原作を映画化するスタッフになれたことに誇りをもってやろう』と言いました。俳優の皆さんにも『誇りを持って参加してください』と言いました。初めてです、自分の映画でそんなことを言ったのは。僕はこれまで日本語の、日本人のための映画を撮り続けてきました。なので海外の映画祭など全く興味は無かったのですが、この映画だけはぜひ世界の人に見てほしいと思っています。それはこれが日本人にしか撮れない被爆の映画だと思っているからです。そんな思い、誇りをもってこの映画に取り組んだつもりです。」

深読みすれば政治的なニュアンスもあるのですが、そこは素直に捉えたい。


記者質問:
「こうのさんにお伺いします。ご自身の作品が映画化されることのお気持ちはいかがでしょうか。そして監督にお聴きします。漫画を映画化するというご苦労はどのようなものでしょうか」

こうの史代(原作)
「まず自分の描いたものが本に載ることすら珍しい状態だったので、映画化されることになるなんてビックリしたんですが、撮影を見学させていただきながらも、『だんだん“本当の話”になりつつあるな』という不思議な感覚があって、これが公開されると、もっと“本当の話”になっていくんだろうな、と思っています」

佐々部清(監督)
「漫画の原作を映画化するにあたり、小説の時もいつも思うんですが、原作の根底に流れるものは絶対に曲げちゃいけない、と心がけています。ですから、こうのさんが原作で伝えたかったことはこの映画でも変わりなく描けていると思います。ただ、この原作は複雑で、僕も一回では理解できなくて何度も読み返しました。漫画には『何度もページを戻れる』という素晴らしい特性がありますが、映画は戻れないものですから、観客の皆さんが2時間通して見る中でページを戻らなくても分かるように伝えなければ、と心がけました。それから、漫画はキャラクターが非常に具体的ですから、映画化されたものが原作のイメージが違ったりすると必ずインターネットで叩かれたりもするものですが、その点については僕は覚悟してますし、あまりその点にこだわるのはやめようと思いました。俳優さんによっては原作の髪型と違ったりしていても、そこにあるのは、田中さんであり、麻生さんであり、堺さんであり、中越さんであり、藤村さんであり、みんなひとりの人間としての個性があるので、それがいちばん生きることを考えながらお芝居を撮っていくことを心がけました。」

監督は原作ファンからのクレームに対しての予防線をさりげなく貼ってますね。


記者質問
「監督と田中麗奈さんにお聴きします。本作は原爆という非常に大きなテーマを扱っていますが、演じる、監督する上でプレッシャーなどはありましたでしょうか?そして、広島ロケで直接その場に足を踏み入れて何か感じられたことがあればお聞かせください」

佐々部清(監督)
「はい、確かにプレッシャーはありました。自分がこういう素材を扱っていいんだろうか、とか悩みました。これは今公開中の『出口のない海』の時も同じだったんですが、どうしても何らかの“殻”を作らなければ映画が進まないものですから、これによって批判を浴びたりするときには自分が進んで受け入れようと思っていました。それから、こうのさんの原作自体が被爆や差別というものを声高に語っているものではありません。そこに書かれているのは、家族の情愛や友情、思いやりといったものです。基本的にそれらをベースにしたものならば僕がデビューからずっと撮り続けてきたものですので、その背景として被爆や原爆といったテーマが浮かび上がるものにすれば、これは自分でもやれるのかな、と思いで作ってきました。僕は山口県の生まれですので、広島には何度も足を運んでいます。平和祈念資料館にも行きました。ですが、今回のような気持ちで訪れたのは初めてですから、襟をただして取り組もうと、背筋の伸びる想いをさせられた思いがします。ただ、撮影中は暑さと天気との闘いで、こんなに天候に恵まれない現場は初めてだというほどに長梅雨にたたられ、そっちのことで頭がいっぱいでした。」

田中麗奈(出演/石川七波)
「私は原作と脚本を読んで、まず何よりも先に『演じてみたい』という気持ちがあったんですが、ただ、戦争を知らない時代に生まれてきた私がこれを演じるにあたって出来ることはなんだろうと考えました。現代に生きる七波(ななみ)という役はすごく明るく前向きに生きている子なんですが、ただ私が伝えなきゃいきないのはそれだけじゃないな、と思って、何がいま私にできることなんだろうと思って、まずはこの作品の重みを知ることだったり、原爆だったり、命の重みだったり、こういう作品に出演することの取り組み方というものを感じようと思って、それでまず、広島に行って、その街並みを一人で歩いてたんですけれど、そこでは単なる役を演じるからということではなく、誰かの子供として、誰かの子供として、いのちを受け継いで生きてるんだ、ということを感じたいと思いました。それで両親も一緒に着いてきてもらったんですが、平和祈念資料館や撮影の場所になるようなところにも一緒に回ってもらって、その後いろいろ家族と話をしました。その場で大勢の人が亡くなったという単なる想像ではなく、ひとりひとりちゃんと夢があっただろうし、目的もあっただろうし、恋もしていただろうし、ということを等身大の人間として感じるとすごく胸が痛くて辛かったです。それを受けて、じゃあ、自分でいま何が出来るんだろう、と考えました。被爆者の娘の役なんですが、そんなトラウマがありながらも、そういうことを乗り越えて命を生かそう、毎日を明るく生きよう、という希望を伝えられたらいいなと思いました。最初にガーンときて、それを乗り越えるという作業は私にとって非常に大変で、成長させられたという思いもありますけれど、そうやって自分が感じたことをそのまま演じました。…すみません、長くなりました」

佐々部監督の最後の一行が少し笑えます。