第12話「秘められた愛の鍵」 NIGHTMARE AT NORTHOAK

バスの事故現場に居合わせたキンブルは、炎上するバスの中から多くの子供たちの命を救った。それが新聞に掲載されて、ジェラードに居場所を突き止められてしまう!(NHKホームページ放送案内より)

■昭和39年から始まった日本国内での「逃亡者」の放送は、全120話のうち1話〜56話までが第1期として一旦の区切りがされている(約3ヶ月の休止を挟み第2期として再開)。その56話の翌週に、”最終回”として放送されたのが本エピソードの再放送であり、日本人にとっても「逃亡者」を代表する名エピソードであると言える。
■冷静に見ると第10話と同じくツッコミどころは数多い。町の皆が集まって、事故は怖いねぇ/でも子供たちが無事でヨカタ、と話をしているところで自己の理念を熱く説くウィルマには空気読めと言いたくなるし、そのウィルマがキンブルの正体に気付いた場面の「共犯者になれと!?(ウィルマ)」「そんなにずうずうしいお願いに聞こえますか?(キンブル)」「あの人、キンブルなの(ウィルマ)」「なんてこった(亭主)」のやりとりはなかなかシュールで笑える。そしてジェラードを後からキンブルが殴る場面…あのー、キンブルはどこに隠れていたのですか?
■しかしそれ以上に、そんなツッコミを入れる余裕を与えないテンポの良さ。冒頭の悪夢のシーンからバス事故〜救出・爆発の見せ場で掴んでおいて、世話された先はなんと保安官の家→事故のショックでキンブル動けず→新聞を見てジェラードやって来る→ついに逮捕!(本当にこのエピソードが最終回のようだ)と、見せ場の連続でぐいぐいと引っ張る。鉄格子を挟んでのキンブルとジェラードのやり取り(二人の”対決”は全編中このエピソードが唯一ではないか?)での二人のそれぞれの”信念”のぶつかりあいの緊迫感。その中で引き出される「片腕の男の捜索には全力を尽くした!」というジェラードの意外な本音。そしてクライマックスの列をなす町の人々の姿に涙したところに駄目押しのようなエピローグ。”キンブルを救いたい”という思いで集まりひと肌脱ぐ町の人々は他のエピソードでキンブルに救われた人々の集合体であり、また視聴者の思いのアイコンでもある。どんな状況に陥っても、市井の人の善意がキンブルを必ず助ける;それは『34丁目の奇跡』でクリス・クリングルが語るサンタクロースの存在と同じく、キンブルの存在は人々が持つ”希望”の象徴だからだ。
■「秘められた愛の鍵」という邦題はいかにも浪花節チックだなぁ。原題「ノースオークの悪夢」とは、キンブルが冒頭で見る悪夢、図らずも町の英雄となり逃げるに逃げられない悪夢、ジェラードに遂に逮捕されてしまうという悪夢、そして町ぐるみでの業務執行妨害を受けてすごすごと引き下がるしかないジェラードの悪夢というフォーフォルドミーニング。