『ウォレスとグルミット 野菜畑で大ピンチ!』

【解説】(allcinema ONLINEより)
 これまでに3本の中編作品がつくられ、2度のアカデミー短編アニメ賞を受賞するなど世界中に熱狂的なファンを持つ人気クレイ・アニメーションウォレスとグルミット」シリーズ待望の初長編作品。同シリーズを生み出したクレイ・アニメの殿堂、英国アードマン社と米国のドリームワークス社による「チキンラン」に続く共同製作作品。チーズが何より好きな発明家の英国紳士ウォレスとその忠実なる愛犬グルミットが、今度は町の野菜畑を荒らす謎のウサギを相手に大活躍。監督はウォレスとグルミットの生みの親ニック・パークと、これまでも同シリーズにスタッフとして関わり本作が長編初監督となるスティーヴ・ボックス。アカデミー賞ではみごと長編アニメーション賞を受賞。
 町一番のお祭り“巨大野菜コンテスト”を前に、人々は畑を荒らしまわるウサギの大繁殖に頭を悩ませていた。そんな中、我らがウォレスとグルミットは最新発明品、ウサギに優しいウサギ回収マシーン“BV6000”を駆使し、プロの害虫駆除隊として大切な巨大野菜をウサギの脅威から守っていた。ところがある夜、正体不明の巨大ウサギが出現、町の人々が大切に育ててきた巨大野菜が次々と食い荒らされ、コンテストの開催に暗雲が立ち込める。かねてからコンテストの主催者のレディ・トッティントンの財産を狙っていた傲慢な狩猟好き男、ヴィクターは、自慢のライフルで犯人を仕留めて見せようと名乗りを挙げる。しかし手荒な手段を好まない心優しいトッティントンは、ウォレスに事態の解決を依頼するのだったが…。

■観る前はあれほど楽しみにしていたティム・バートンの『コープスブライド』が駄目だった理由はいろいろあるけど、CG処理の多用によりキャラクターの動きがシームレス過ぎていたことが大きい。もちろん今回の『W&G』がすべて手作業とは思わないし実際そうではないけれど、指紋がうっすら残る粘土の質感や、微妙にカクカク感の残るキャラの動き、といった”手づくり感”に、ニック・パーク監督を初めとする造り手のキャラへの愛情・愛着、そして”動かないものに命が吹き込まれる”という映画のミラクがある。
■特に今作は、W&Gのコンビにシリーズ最大の危機が訪れ、グルミットはウォレスを救うための孤独な戦いを強いられることとなる。とまどうグルミット、苦悩するグルミット…の心情はいつものようにすべて”目”と”まぶた”そして”手つき”で語られるのだけど、そこにアニメーターの才能と苦労を感じずにいられない。

■これまでのシリーズはどれも20分〜30分の中編シリーズだったのがいきなり長編になって、”大丈夫かなぁ…10年に1本の長編より3年に1回の中編のほうがいいのかも…”と心配したのも杞憂。ヒネリのあるストーリー*1とサブキャラの絡みでテンコ盛りの90分間。モデルアニメならではの愛敬あるキャラクターたち*2と、モデルアニメであることを忘れさせる画面構図と編集*3、この矛盾する要素のバランスの妙。
■他の映画でも感じるのだけど、「アニメ」映画というジャンル分けはどうかと思う。『W&G』シリーズは一貫して(習作『チーズ・ホリデー』はちょっと違うけど)”英国紳士の発明家が怪事件を解決する”という『クォーターマス』等の流れを汲むイギリス流「SF」であり、間抜けなウォレスを見捨てないグルミットの「バディムービー」であり、ヒッチコック的な「サスペンス」とキートン的な「アクション」、それらをネタにした「スラップスティックコメディ」なのだから、「アニメ」なんていう作成手法だけのラベリングは失礼だ。それと「大人も楽しめる映画」なんて言い方をするレビューもどうかと思う。冒頭にも書いた”ミラクル”を感じることのできない大人が(そして子供も)多いこの世の中で、あくまで”遊び心を忘れない”全ての人々のための一流のエンタテイメントなんだ。

■お客の入りについてはどこの劇場も寂しい様子。配給会社は親子層の取り込みを狙って春休み全国ロードショーの勝負に出たけど『ドラえもん』にも『ワンピース』にも、そして『ケロロ軍曹』にも勝てなかった。じゃぁせめて大人だけ…と思っても、パブリシティは低年齢層へのアピール度が強くて、結果従来のファン以外は取り込めていないのだろう。ファンにとってもそれは寂しい。たとえ同じ観客数でも、大きくてガラガラの映画館で寂しい笑い声を聞くより、小さくても込み合っている映画館で皆で笑いたいなぁ*4

*1:原題の”THE CURSE OF THE WERE-RABBIT”で、カンのいい人ならネタが判るかも。”WERE-WOLF"が月夜に狼に変身する人間なら、じゃぁ”WERE-RABBIT”は…?

*2:今回のツボは、単体だとブサイクなのに集合するとなぜか可愛く見えるブタ鼻ウサギ。ヴィクターの頭の上に乗った黒ウサギと仲間のウサギが手を振って別れるシーンは特に笑った。

*3:前半のアクションの見せ場「ウサギ男と特装車チェイスシーン」は単純に”凄いなぁ…”と思った。後半の見せ場「遊園地のスピットファイアでの空中戦」は全体の位置関係が複雑でスピード感が感じられなくて、前作『危機一髪!』での飛行機アクションと比較すると今ひとつだけど、”ドッグファイト”のシャレが効いているので許す。

*4:『危機一髪!』を見たときは劇場に父+母+息子の親子づれがいて、「あー面白かった!」と言いながら帰って行くのがなんか嬉しかった。『チーズ・ホリデー』『ペンギンに気をつけろ!』を見たとき、そして今作では席の近くに外人さんが居て、別に知り合いになったわけじゃないけど同じシーンで同じように笑って、なんか幸せだった。