イン・ハー・シューズ

解説】(allcinema ONLINEより)
対照的な2人の姉妹が恋に仕事に、それぞれが人生の転機を迎える姿を描くハートフル・ヒューマン・ストーリー。ジェニファー・ウェイナーの同名ベストセラーをキャメロン・ディアストニ・コレット主演で映画化。監督は「L.A.コンフィデンシャル」「8 Mile」のカーティス・ハンソン
周りが羨むスタイルと美貌を持ちながら、難読症というハンディキャップがコンプレックスとなっているマギー。一方姉のローズは弁護士として成功しているものの、自分の容姿に自信が持てずにいた。定職にも就かず、ローズの家に居候していたマギーは、ある時、ローズの留守中に訪ねてきた彼女の恋人にちょっかいを出してしまい、怒ったローズに家を追い出されてしまう。どこにも行く当てのないマギーは、仕方なく亡くなった母方の祖母エラのもとを訪ね、彼女が世話役をする老人たちの施設で働かせてもらうのだが…。

■C.ハンソン監督の新作。男ばかりのアクション映画『L.A.コンフィデンシャル』*1と、中年にさしかかった姉妹のコメディドラマである今作、描くテーマは全く異なっていても、キャラクターを徹底して掘り下げて描写する手法は共通している。綿密なキャラクター描写により彼ら/彼女らに感情移入させつつ、それぞれの成長/再生のエピソードを巧みに絡ませ大きな流れを作っていくうまさがハンソン演出の魅力だ。

■C.ディアスとT.コレットのキャスティングは、二人それぞれが持つパブリックイメージをベースにしつつ新たな面を印象づけるというやりかたが効果を生んでいる。まず妹マギーを演じるC.ディアスについては、『メリーに首ったけ』『チャリエン』等による天真爛漫なセクシー・アイコンというイメージは本作でも踏襲する一方で、難読症*2というエッセンスを設定に加えることで”社会で生きていくためには否応なしにセクシーさを強調せざるを得なかった”という、本当の自分を理解してもらえない/理解してもらう術を持てない孤独感*3と、どんなに我侭で男好きに見えてもそれを無慈悲に突き放すことができない愛おしさを感じさせる。一方のT.コレット=姉のローズは、『シックス・センス』『アバウト・ア・ボーイ』と同様に、男運が悪く自らの手で人生を切り開かざるを得ない頑ななイメージを持ち込みつつ、久しぶりに男と寝たことを親友には自慢したくてたまらないような、恋をまだ諦めていない女性のいじらしさを匂わせる。コレットは決してハリウッド的な美人ではないのだが、元同僚のサイモン(M,フォイアスタイン)のアプローチにより一枚ずつ殻がはがれて魅力的になっていく様が微笑ましい。それは同時に、彼女の魅力に気付いていたサイモンの人間性を観客にスムーズに受入れさせる要素にもなっている。

■S.マクレーン扮する姉妹の祖母も、この手のドラマにありがちな「包容力のある何でも知っているお婆ちゃん」ではない。突然現れた孫娘の真意を手探りつつ、また友人たちの助言を借りつつ、今は亡き自分の娘(=姉妹の母親)に関する過去の後悔と向き合っていく。祖母/母/娘の三代の失われた絆が形作られていく「縦糸」のドラマと、ローズのサイモンに対する気持ちの行方、そしてマギーの自分探しという「横糸」のドラマが織り合わさり、しっかりとした一枚のドラマが構築されていく。そして、泣かせるシーンやシリアスなシーンの後にコミカルなシーンを配列させることによるメリハリが長い尺のドラマをスムーズに引っ張り、その流れの中で気持ちよく泣かされて笑わされてしまった。

■なお、映画のパブリシティにおいては、C.ディアスが”難読症を克服し、ローズの結婚式で詩を朗読する”シーンをクライマックスのように打ち出している。しかし実際に見てみると、結婚式のシーンはエピローグとしての位置づけであり、姉妹が互いの存在を本当にかけがえのないものであると再確認していくプロセスそのものがクライマックスである*4。それはまるで、誰の人生においても出会いや相五理解そのものが十分ドラマティックなものなのである、ということを示しているようだ。

*1:クライマックスの、エドとバドの渾身の銃撃戦シーンでは泣いてしまった。アクション映画で泣かされるとは思いもしなかったが、それも今思えば、そこに至るまでの男たちのキャラクター描写が丹念であったことに他ならない。

*2:難読症”という背景をパブリシティで明文化していることはある意味ネタバレなのだが、同症についての社会的認識が殆どない日本にとってはそれも必要だったと思う。そうでないと、C.ディアスの役柄が”読み書き計算のできない頭の悪い女”に誤解されてしまう。

*3:MTVのカメラテストのシーン、”テキストを読んでみて”と言われて、ひとりきりのカメラの前でそれまでの輝く表情と自信が消えて行く様が切ない。

*4:ローズがサイモンに対してマギーをなかなか紹介しようとしない理由は、マギーがサイモンを誘惑しかねないことをローズが懸念しているためだと私は思っていた。しかしローズの台詞によって明かされる「もし妹のことを知ったらきっとサイモンは彼女を嫌いになるから」というローズの真意にぐっときた。そしてマギーにおいては、教授からの質問に答えながら、親友(=ローズ)を失うことのつらさを自分自身の言葉で確認していくシーンがいい。また、「私は読むのが遅いの」というローズの戸惑いに対して「大丈夫、わしは聞くのが遅い」と返す教授の優しさが何よりも暖かい。