『クレールの刺繍』

【解説】(allcinema ONLINEより)
望まない妊娠をした少女と、息子を亡くした中年女性が刺繍を通して温かな交流を紡いでいくヒューマン・ドラマ。監督は本作で劇場長編初メガホンのエレオノール・フォーシェ。主人公二人の心の軌跡を、美しい映像で繊細かつ静かに描き出していく。主演は「イブラヒムおじさんとコーランの花たち」のローラ・ネマルクと「マルセイユの恋」のアリアンヌ・アスカリッド。2004年カンヌ国際映画祭で批評家週間グランプリを受賞。
スーパーのレジ係として働く傍ら、小さな下宿で大好きな刺繍制作に精を出す17歳のクレール。実は彼女は望まない妊娠をしてしまい、5ヶ月経った今も親友以外には打ち明けることができず、母親にさえ黙っていた。そして、医者から勧められた“匿名出産”という、産みの親が身元を秘したまま出産し子どもを養子に出す合法制度を利用しようと考えていた。そんなある日、クレールはふとしたきっかけから、刺繍職人のメリキアン夫人のアトリエで働くことに。しかし、最愛の一人息子を事故で亡くしたばかりの夫人は悲しみに打ちひしがれ、世捨て人のような生活を送っていた…。

■両親と不仲の未成年の少女。少女の望まぬ妊娠と出産の問題。バイク事故で息子を失った中年女性。事故の同乗者であった青年の喪失感。決して明るくないモチーフに対して、それらを説明する描写や台詞は廃し、手持ちカメラや短いショットの積み重ねという現代的なスタイルを採る一方「刺繍」というアナログな題材を通じ登場人物たちの再生を描いていく。ヨーロッパ映画であること以外何の予備知識もなく鑑賞したのだが、伝統的なヨーロッパ/フランス映画の格式とドキュメンタリータッチの現代的な視点が折衷されたような手法が興味深い。

■物語の展開やシーンの持つ「温度」に併せて、台詞よりも雄弁に語るローラ・ネマルクの表情が素晴らしい。17歳という思春期の表情が、女としてのそれに変わり、男を受け入れ、そして新しい生命を受け入れていく姿が凛々しい。

クレールの刺繍 [DVD]

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