遠藤ミチロウの実験室!@十日市町ヲルガン座

気象庁が中国地方の梅雨入りを発表したのがつい先日のことなのにスコーンと晴れて今度はもう”梅雨の中休み”なのだという6月13日の金曜日。汗ばみながらもスーツ姿で会社から市電に乗ってヲルガン座へ。


腹が減っていたこともありまずは現地でゴハンを食べて落ち着こう、と開場10分前に現地着。歩道に面して閉ざされたドアの前には既に数人の今夜の観客が並ぶ。予定時間に遅れること約10分、開いた扉から狭くて少し急な階段を昇り、狭い通路を並んで店の入口へ。店の中の本棚に『ガロ』が並んでいる時点で独特の空気が。ライブ受付と飲食物のオーダーを済ませるために狭い入口に並ぶ列の後ろを小声で「スイマセン…」とすり抜けていくTシャツ姿…ミチロウ氏本人だった。急のことで驚きながらもこちらも小声(なぜか)で「ガンバッテクダサイ」と背中に声援を送る。

以前は事務所だったと思われる雑居ビルの2階を改装したヲルガン座の構造は一言ではなかなか説明しにくい造りになっていて、入口からキッチンに面したカウンター席スペースを抜けたメインフロアに、普段置かれているであろうテーブルと椅子をすべて撤去して床にゴザを敷いて即席の桟敷席が用意されていた。ゴザの上にはたくさんのクッションが並べられ、窓際にほんの数席のみ椅子が並べられていた。桟敷席の前、恐らくその向こうにはステージがあるのであろうが閉ざされたカーテンにはプロジェクターで根本敬土方巽といったアングラな映像が投射されている。落ち着いて食事して待っていたいと思ったので数少ない窓際の椅子席に座るが、これが結果的には正解。前回のOTIS!でのライブの客数が約20名程で、今回のライブについてもヲルガン座のサイトには”まだ席あります”という告知が直前まであったため同程度の客数かと思っていたのだが開演時間が迫るにつれて客数は膨れていき桟敷席もロフト席*1も満杯、恐らく店内キャパいっぱいの60名くらいがチキンファーム・チキンのように行儀よく犇きあっていた。開演時間も近づき、「本日のライブは第1部が約1時間、休憩を挟んで第2部が1時間」と店スタッフの方からの説明。でも休憩時間になってもこの人数ではトイレに行くのは至難の技だろう…と、食事後にすぐにトイレを済ませる。

開場混雑のため開演予定時間を少し過ぎて、本日の【実験】の始まり。明かりが落ちた会場の横側から、眠り男チェザーレか、はたまた古城の執事イゴールか、素肌の上に黒いジャケットを羽織った痩せた白塗りの男*2が現れ、「なんだかここは死人の臭いがするねぇ…」「今日は誰を観に来たんだい?」「ここで何があるんだい?」とカンテラを客席に翳して語りかける。元号が平成になって20年が経ったというのに昭和の匂いのぷんぷんするアングラ演出にこんな場所で出くわすとは。年代の差もあって生で体験したことのないアングラ芝居を予想外に体験できて少し嬉しい。ステージの幕が上がり、なぜか全員白布を被ったフルバンドをバックにして自らもフォークギターを構えたミチロウ氏の『マリアンヌ*3』でスタート。

【第一実験室】

  • マリアンヌ(with ガール椿)
  • お母さん、いい加減あなたの顔は忘れてしまいました
  • 月蝕
  • 1999
  • MIZER
  • JUST LIKE A BOY
  • 父よ、あなたは偉かった
  • カノン

演奏が終わると再び幕が下がる。実はフルバンドはこの『マリアンヌ』の1曲のみで、舞台からバンドメンバーが撤収する間、再び白塗りの男が自分語りで繋ぐ。その後は通常の”アンプラグド・パンク”の形態で約1時間。のっけから『お母さん、〜』というのも凄いが*4、終盤には『父よ、〜』でバランス的にはOK?白塗り男は途中の『MIZER』で再登場し即興でダンス*5。最後は定番の『カノン』、で第一部終了。

約20分のトイレ休憩(?)後、ライトが落とされ、会場の横からワンピースを着た痩せた白塗りの女(これまた大槻氏(笑))が登場。「ねぇ私のお兄ちゃん知らない?」「私お兄ちゃんと地下室で二人で暮らしてるの…でも時々自分がお兄ちゃんなのか判らなくなるの」とこれまたアングラな設定だ(笑)。幕が上がると第1部と同様にフルバンドをバックにしたミチロウ氏。今度は全員が白いシャツ+白塗り*6、ミチロウ氏はギターを持たずマイクスタンドに体を預けるようにして唄うは純ちゃんの『蛹化の女』!これが実にかっこよかった。ヲルガン座ブログにもその時の写真が掲載されているのですが、狭いステージの上の演奏者全員がちゃんと見えるように立ち位置が計算され(キーボードの方などステージの最先端部で正座して演奏しているのです(笑))その構図のバランスも美しかった。で、【白塗り】でキーボードの方が【メガネ】でライブの副題が【実験室】と来て頭の中に浮かんだのは【密室系】で【cali≠gali】の曲がしばらく頭の中をぐーるぐる(笑)。

【第二実験室】

第一部と同様に、『蛹化の女』でいったん幕が下り、バンドがはける間に白塗りの女がしゃべりで繋ぐ。そして再び幕が上がると…ミチロウ氏がバナナを食べていた(笑)。
『オデッセイ・2005・SEX』は前回観たotis!とは違い、曲中のアオリでそこそこ客席からリアクションがあり氏も安心? ミチロウ氏と落語で競演した桂歌蔵氏が”(落語の後の)「オデッセイ・1985・SEX」がウケるのだ”と書いていたが、この曲に関して言えば立派な【講談】なんだよね。今やっている曲で他にもこんな舌節のいい講談スタイルの歌ってあったかな?『電動こけし』(勿論フォークバージョン)には隣の女性が「なつかしぃ…」と呟く。「第2部は全部、ラブソングです」とMCするミチロウ氏。…そうか?(笑) 定番曲『天国の扉』では再びバンドを呼び込んでの重たいロックバージョン。『教祖タカハシ』は同名のジョージ秋山氏の漫画が近年単行本化された際にミチロウ氏が書いた紹介文を曲にしたもの。公式アルバムではなくて2007年のオムニバスアルバム『酔いどれ詩人になるまえに』に収録されており、音源としては最新の曲になるのかな?

酔いどれ詩人になるまえに

酔いどれ詩人になるまえに

ライブの〆は『先天性労働者』、と思わせて間髪入れず『仰げば尊し』。この流れにヤラレタ、というファンも多かったようだ。
ライブが終了するとステージの上で演奏者全員がカーテンコール。大混雑の会場内で物販開始。しかし時間がかかりそうだったので諦めて早々と会場を後にしたのが23時くらいだったかな?
タイトルの「実験室」の通り、通常の弾き語りライブに演劇・映像・バンドサウンドという要素を盛り込んだ今回のライブは演者の即興的要素や意外性もあり、面白いライブだった。今後もこのジャンルオーバーなスタイルでやって欲しいとも思うし、もしそれならば大槻オサム氏のナビゲートをより打ち出して、詩の朗読と絡めてや全体の「物語性」を付けて欲しいというのが個人的な欲求。

*1:僕が座った窓際の椅子席から桟敷席の後方部の真上に2段ベッドのようなロフトが設えてあり、多くの人が立って歩く際に頭を打って悶絶していた

*2:大槻オサム氏。http://ebisu-daikokuya.at.webry.info/

*3:ジャックスのオリジナルも氏のカバーも聴いたことがなかったので判らなかったけど、途中で”マリアンヌ”出てきたのであぁ、この曲なのかと理解

*4:ベトナム伝説』収録のオリジナル版の、バンドバックに機械的に朗読するバージョンが観たいなァ。

*5:本当に即興だったらしく、曲自体が短かったためダンスも中途半端になった、と第二部のしゃべりでネタにしていた(笑)

*6:演出でプロジェクター投射される映像のスクリーン代わりにもなっていた