プロデューサーズ

解説】(allcinema ONLINEより)
メル・ブルックス監督による68年の傑作コメディを2001年にブロードウェイでミュージカル化し、トニー賞史上最多の12部門を獲得した話題の舞台を、今度は再び映画版として完全リメイクした痛快ミュージカル・コメディ。出資金を騙し取ろうと失敗確実なヒトラー礼賛ミュージカルの製作に乗り出したプロデューサー・コンビが辿る顛末を、きわどいギャグ満載で描き出す。主演にはブロードウェイ版のオリジナルキャスト、ネイサン・レインマシュー・ブロデリック。共演に「キル・ビル」のユマ・サーマンと「奥さまは魔女」のウィル・フェレル。また、舞台版の演出・振付を担当したスーザン・ストローマンが本作でもメガフォンを取り監督デビューを果たした。
1959年、ニューヨーク。かつてはブロードウェイで栄光を極めたものの今やすっかり落ち目のプロデューサー、マックス・ビアリストック。製作費を集めるため、今日も有閑老婦人のご機嫌とりに悪戦苦闘。そんな彼のもとにやって来たのは、異常に神経質な小心者の会計士レオ・ブルーム。さっそく帳簿の整理を始めた彼は、ショウが失敗したほうがプロデューサーは儲かる場合もあるという不思議なカラクリを発見する。それを聞いたマックスは、大コケ確実のミュージカルを作り出資金を丸ごといただいてしまおうとレオに協力を持ちかける。一度は拒否したレオだったが、小さい頃からの夢だったブロードウェイのプロデューサーになるチャンスと思い直し、マックスのもとへと舞い戻る。かくしてレオとマックスは史上最低のミュージカルを作るべく、まずは史上最低の脚本選びに取り掛かるのだが…。

■観る前は予測もしなかったことだけど、映画が進んでいくうちにおや?なんだか懐かしいぞ…と感じるものが。例えば、レオがプロデューサーを夢想するシーン、巨大な電飾の階段状のセットでジーン・ケリーよろしくダンサーとラインダンスを踊るレオ。レオとマックス、フランツの3人が並んで踊る『グーテンダーグ・ホップ・クロック』のコンパクトでコミカルな手足の振り付け。二人きりとなったウーラとレオが踊る、ソファを中心にしたシンメトリーな構図や、いかにも的な青いライト。舞台『春の日のヒトラー』の、鍵十字のマスゲームをバズビー・バークレー風に俯瞰から捉えたショット。 ”最悪のミュージカルがいかに誕生するのか”というストーリーばかりが話題として先行していたけれど、演出に関してはこの映画、1940〜50年代の全盛期のMGM作品の雰囲気を踏襲した正統派のミュージカル映画なのだ。
■ケリーやアステアほどのレベルではないにしても、実際の舞台をこなしているだけにM.ブロデリック(とっちゃん坊や)とN.レイン(ケチな中年)は堂々と、そして楽しそうに歌い踊っている。G・ビーチ(ゲイ)、W.ファレル(ナチオタ)、U.サーマン(露出狂)らも、凄い!という程ではないが悪くない。M.ブルックス御大*1のほどよい湯加減のスコアに載せて、底抜け大作『春の日のヒトラー』が出来上がり上演されるまでを盛り上げていく。
■…しかし『春の日のヒトラー』のインパクトの後、レオとマックスが誤算に気付いたその後の展開が全く盛り上がらない。2001年のブロードウェイ版のストーリー展開は不明だが、ネット情報によると1968年のオリジナル版はさらに過激な展開になっていったということ/しかし今回のリメイクにおいては”9.11”の影響により展開が変更されたとのこと。←の真偽はともかくとして、『春の日のヒトラー』をラストに持ってくるような展開もできたはず*2ラストの『プリズナーズ・オブ・ラブ*3』で多少持ち直したけれども、カーテンコールに拍手喝さいという気持ちにまではなれず、残念。
■とまれ、スタンダードなメロデイに乗せて、カメラは役者の全身の動きをゆったりと捉え、役者は観客に向かって笑い歌いかける”正統派”のハリウッド・ミュージカル映画の新作*4をスクリーンで見れたことは嬉しかった。さぁ、次は横川シネマ!!の『鴛鴦歌合戦』だ。

*1:今年で80歳の御大は、今作のプロデュース/脚本はもちろん、全曲の作詞・作曲、そして”鳩”と”猫”(の声)を担当し、カーテンコールのオーラスに登場。『メルブルックス大脱走』とか『メル・ブルックス 逆転人生』等、その名が冠として作品の売りになっていたのに今回はパブリシティでの存在が薄いのが寂しい。

*2:例えばこんなのはどうよ?―レオとマックスと同じ着想で、最低ミュージカル(これが『プリズナーズ・オブ・ラブ』)を上演しようとする同業者が現れる。プロデューサー魂に火がついた二人はかぜんやる気になって、すったもんだの末上演された『春の日のヒトラー』が大ヒット、複雑ながらも満足する二人の姿、その後の二人の興行師街道まっしぐら人生を語るエピローグでエンド。

*3:UP-BEATを思い出してました。もちろん全く別物。広石武彦

*4:近年では『シカゴ』があったけど、ダンスシーンをやたらと細かいカットで刻む”ごまかし”が全く気にいらなかった。