『ロゼッタ』

【解説】(allcinema ONLINEより)
逆境の中にあってもたくましく生きていく女性の姿を、「イゴールの約束」のダルデンヌ兄弟が描いた作品。キャンプ場のトレーラーハウスで酒浸りの母と暮らす少女ロゼッタ。ある日、彼女は理由もなく職場をクビになってしまう。ロゼッタは厳しい社会の現実にぶつかりながらも必死で新しい仕事を探しつづけるのだが……。99年のカンヌ映画祭パルムドールと主演女優賞を受賞。

ロゼッタはいつも早足で突き進む。彼女を動かし続けるのは、怒り/苛立ちといった負のモチベーションである。他者からの施しや社会的な生活保護を受けることは恥ずべきこと、とロゼッタは”働く”ということに頑なにこだわり続ける。プライドのためというと聴こえはいいが、本人は堕落した母親に対する反発か、その意義は二の次で、働くという”形”をとにかく維持することに彼女は固執する。その固執がかえって自分を社会から遠ざけていることに気付くには彼女はまだ幼い。
■同様に幼いリケと知り合い*1、彼女はワッフル屋台の製造の仕事にありつく。幼な子が流れ星に願いをかけるように、毛布にくるまった彼女はもう一人の自分に語りかける。「仕事ができた/友達ができた/まっとうな生活…」。
■しかし間もなく、ワッフル屋の親父は自分の息子に社会勉強させるために*2ロゼッタの仕事を奪う。働き場所を確保するためにロゼッタはリケを裏切る。リケが仕切っていたワッフル屋台を切り盛りし、自分の名前を胸元に刺繍したエプロンを付けた彼女は落ち着いている(ように見える)。家に戻ると、家出していたアルコール依存症の母親が入口に寄りかかって寝ている。母親をやっとこさベッドに運びこみロゼッタは思う。母親をここまで追い込んだ社会とは何なのか。ゴム長靴を履かないと歩けないような場所に住んでいることを隠し、自分のことを友達と思ってくれたリケを裏切ってまで守りたかった”働くこと”とは何なのか。ロゼッタはワッフル屋の親父に電話をかけることで社会へ復讐する。リケがやって来る。彼はロゼッタと社会とを結ぶ入口なのかもしれない。それまで倒れまいと突き進むばかりだったロゼッタの動きが止まる。泣く。

ロゼッタ [DVD]

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*1:リケも不器用なキャラクターであるが、自分が録音したテープを披露するシーンは、ダルデンヌ演出では珍しく明確な”笑い”を取るシーンだ。

*2:演じるは”ダルデンヌ組”の父親専門役者、オリヴィエ・グルメ。本作ではごく普通の市民的な役である。ダルデンヌ作品の主人公の少年・少女には彼等を守り導く肉親の不在という設定が一貫しているが、本作ではグルメが象徴する世間一般的な”親子関係”が、結果的に主人公の居場所を奪ってしまう、という皮肉な展開を見せる。