キング・コング

【解説】(allcinema ONLINEより)
33年製作のSF映画の金字塔「キング・コング」を、最新のテクノロジーを駆使し、空前のスケールでリメイクしたアドベンチャー超大作。「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズのピーター・ジャクソン監督が長年夢みてきた悲願のプロジェクトが「ロード〜」の大成功を受けついに実現。ヒロインには「21グラム」のナオミ・ワッツ。共演に「戦場のピアニスト」のエイドリアン・ブロディと「スクール・オブ・ロック」のジャック・ブラック
1930年代初頭のニューヨーク。野心家で大胆不敵な映画監督カール・デナムは、かつてない冒険映画を撮ろうと、誠実な脚本家ジャック・ドリスコルと美しい女優アン・ダロウを加えた撮影クルーを率い危険な航海に乗り出す。そして、ついに幻の孤島“髑髏島(スカル・アイランド)”へと辿り着いた一行。カールはさっそく撮影を開始するが、やがてアンが原住民にさらわれてしまう。救出に向かったクルーたちだったが、彼らはそこで想像を絶する世界を目の当たりにするのだった…。

■念願の『キングコング』を手に入れることができて、PJはさぞかし嬉しかったことだろう。『LOTR』3部作の興行的・映画史的な成功で名誉も財力も手に入れた彼が、かつて自分が映画を志すきっかけとなった古典を思い入れたっぷりにリメイクした本作。その感想を一言で言えば―「長い。」

■確かに、コングとVレックスのバトルは、鑑賞動体視力が追いつくギリギリのスピードと重量感たっぷりの格闘、ギャグすれすれの危機演出で見ごたえたっぷりだったし、アンを見つめ/護り/追いかけ/戦い/そして敗れるコングの純朴さはCGキャラであることを忘れさせるほど情感に訴えかける。しかしそれらのプラス要素も、長くてくどい話運びがマイナス要素となって差し引きゼロ、あるいは鑑賞料金と鑑賞環境によってはマイナス評価が付くのは容易い。
■スタートから主要登場人物の紹介と「冒険号」での集結、髑髏島への漂着―ここまでで既に1時間。『ブレインデッド』だったらいよいよ屋敷の中での大殺戮が始まるクライマックス手前地点だろうに。そこまで時間をかけた人物描写はその後の展開に何も活かされないのがまた虚しい。中盤の1時間は髑髏島での冒険譚。前記のコングとVレックスのバトルを除けば、ご都合主義とCGの荒さ、原住民のメイクや巨大蟲の襲撃シーンの悪趣味ぶりが悪印象。そして最後の1時間は、髑髏島からの帰還後のデナムの利己主義ぶりを描いた上で劇場でのコング興行の幕開けを描くべきだったはず。特にアンについては、”デナム達人間社会の醜さに失望”→”純朴なコングのことが気にかかる(→でも脚本家のことも…)”という葛藤描写を入れなければ彼女とコングとの再会は盛り上がらないし、脚本家と抱き合うラストも唐突すぎる。スケートリンクのシーンなんて、”そんなことしてる場合じゃないよ!志村後ろ後ろ!”と緊張感がそがれるだけの余計なシーンだ。

■33年版のオリジナルを見て、PJは血沸き肉踊るアドベンチャーに胸を高鳴らせたに違いない。それならば、なぜPJはアドベンチャー映画としてこの映画を撮らなかったのだろう。冗長な人物描写もグロテスクなクリーチャーも人が死ぬ直接描写も全部カット。子供から年寄りまで楽しめるユーモアとカタルシス、そんな映画を見せて欲しかった。しかし現物は「俺は色々なことができるんだよー」というPJの思いばかりが先走ったバランスの悪い大作だった。
■地元ウェリントンに一大映画産業を起こし、ワールドプレミアも地元で開催したりの郷土精神や、無謀だと言われながらLOTR三部作を一気呵成に撮影した熱意は素晴らしい。でも今のPJは、子供には買えないオモチャを大人買いして悦に浸るような兆しが見え隠れしている。これから彼は、唯我独尊となり方向性を見失った”ジョージ・ルーカス”になるのか、それともマーケティングとマニアックさのバランス感覚を兼ね備えた”サム・ライミ”となるのか、今後の彼の動向が気になる。