父と暮せば

【解説】(allcinema ONLINEより)
戦後の広島で、原爆から独り生き残った後ろめたさから自らの幸せを拒否して生きる娘と、幽霊となり彼女の恋を懸命に後押しする父との4日間の交流を優しく綴ったヒューマン・ドラマ。井上ひさし原作による名作舞台を映画化。「TOMORROW 明日」「美しい夏キリシマ」に続く黒木和雄監督の“戦争レクイエム三部作”完結編。主演は宮沢りえ原田芳雄。共演に浅野忠信
昭和20年8月6日、午前8時15分、広島に原子爆弾が投下された。それは一瞬にして多くの命を奪った。3年後の広島。図書館に勤める美津江も、愛する人たちを原爆で失い、自分だけが生き残ったことに負い目を感じながらひっそりと暮していた。そんな彼女はある日、図書館で一人の青年、木下と出会う。2人は互いに惹かれるものを感じるが、美津江は“うちはしあわせになってはいけんのじゃ”と自らの恋心を必死で押さえ込んでしまう。見かねた彼女の父・竹造は幽霊となって姿を現わし、“恋の応援団長”を名乗り懸命に娘の心を開かせようとするのだが…。

井上ひさしの舞台劇の映画化。原作劇のもつスタイルを踏襲し、回想シーン以外は、空襲&ピカを焼け延びた民家の中で、娘とその父による対話劇*1が行なわれる。登場人物は、非常に活舌よく喋るので、聞き取りにくい台詞などない。カメラはワンシーン×ワンカットを多用した長廻しが大半を占める。…全くもって、何のための映画化なのか、舞台劇のまんまなら舞台で見たほうがいいじゃないの、と言いたくなる(=ケチをつけたくなる)条件は揃ったようなものである。しかし物語の持つメッセージと、ふたりの役者の作り出す圧倒的な人間像の前に、そんな言いがかりはどうでもよくなってしまう*2。欲を言えば、ラストシーンの音楽はメインテーマを使うではなくもちっと明るい曲調のものにしてカタルシスを感じさせてほしかったのだが…やはり「良かったね」で済ませてはいけないテーマである、ということかもしれないけど。

■広島の人間としてはやはり、ふたりが喋る広島弁の仕上がり具合がどうしても気になって仕方ないところである。宮沢りえについては、ほぼ満点(ほんの数箇所だけ、気になる部分があった)。…そして原田芳雄は、まんま”広島のオヤジ”で恐れいった
■「〜してちょんだいよ」という語尾はこれまで聞いたことがないが、「ササラモサラ」という呪文のような単語を聞くのは『仁義なき〜完結篇』の市岡輝吉(松方弘樹)以来だが、あぁやはり本当に広島弁だったんだ、と変なところで安心した。

父と暮せば 通常版 [DVD]

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*1:言うまでもなく父親は『亡霊』ではく、罪悪感に抑圧された主人公の精神が父親の姿として投影された姿である。

*2:ラストシーン、抑圧から開放された主人公が台所にて上を見上げるシーン、そんな”ここぞ”というシーンにおいて、映画ならでは演出が待っていた。…見上げた視線の先にあるのは天井ではなく、原爆ドームの屋根とその上に広がる空だったのである。