『モーターサイクル・ダイアリーズ』

【解説】(allcinema ONLINEより)
のちに革命家としてその名を世界に轟かせることになるチェ・ゲバラが学生時代に行なった南米大陸縦断の旅を、彼が残した日記を基に映画化した青春ロード・ムービー。情熱的で正義心に溢れた青年が、親友と共に大自然を疾走し、様々な人々との出会いを通して人間的な成長を遂げる姿を活き活きと詩情豊かに綴る。主演は「天国の口、終りの楽園。」のガエル・ガルシア・ベルナル。監督は「セントラル・ステーション」のウォルター・サレス。なお本作でゲバラと旅を共にする友人アルベルト役を演じるロドリゴ・デ・ラ・セルナは、チェ・ゲバラとは“はとこ”の関係。
1952年、アルゼンチンのブエノスアイレス。喘息持ちながら理想に燃え好奇心溢れる23歳の医学生エルネストは7歳年上の陽気な友人アルベルトと南米大陸探検の旅に出た。アルゼンチンからパタゴニアへ、そしてアンデス山脈を越えてチリの海岸線に沿って進み、最終的に南米大陸の北端ベネズエラのカラカスを目指す。アルベルト所有のおんぼろバイク“ポデローサ号”を移動手段に、わずかな所持金と貧弱な装備だけの彼らにとって、それはあまりにも無鉄砲な計画。当然のように彼らの行く手には様々な困難が待ち受けていたが…。

■実は”モーターサイクル”は物語前半でエンコしてしまうので、タイトルの真意は、口八丁手八丁でその日の食と宿をやりくりする主役2人の「自転車操業珍道中」というところか。
■50年前の昔も今も変わらないもの: 旅をすることの理由、旅立つ若人の輝き、階層社会における搾取、宗教の名のもとの圧制。社会は結局何も変わっていないのだ。この映画はチェ・ゲバラの自伝映画といスタイルを借りて、『華氏911』や『フォッグ・オブ・ウォー』で明らかにされたアメリカの(そして日本も無関係ではない)社会的欺瞞に対する警鐘の映画でもある。
■そこまで考えを巡らさなくても、またゲバラを知らない世代(私もそうだ)にとっても、本作は「青春ロードムービー」としての輝きがある。南米各地の風景の雄大さ、主役のガエル・ガルシア・ベルナルの瑞々しさ、そして旅先で出会う人々の素朴なあたたかさ。プロの俳優ではない地元の人々をキャストに起用し、また撮影も実際のゲバラの行程を順撮りで丹念に辿っていることから、ゲバラの青春期のドラマに加え、サレス監督によるリアルな南米遍路のドキュメンタリーとしても、作り手の”誠実さ”を感じた。