『息子のまなざし』

【解説】(allcinema ONLINEより)
ロゼッタ」「イゴールの約束」のダルデンヌ兄弟が、文明社会における人類の永遠の課題とも言える深遠なモチーフに真摯かつ意欲的に取り組んだ人間ドラマ。複雑な感情を抱える主人公の極限の心の葛藤を、無駄を限界までそぎ落とし、淡々としたタッチで綴っていく。オリヴィエ・グルメは2003年のカンヌ国際映画祭で主演男優賞を受賞。
ある日、フランシスという少年が職業訓練所に入所してくる。彼は木工のクラスを希望したが、クラスを担当するオリヴィエは手一杯だという理由で断ってしまう。ところが、オリヴィエはなぜかフランシスが気になる様子。結局オリヴィエは後日フランシスを自分のクラスに受け入れるのだったが…。

■自分の人生においてはじめての頼れる存在であるオリヴィエに対して無邪気な人なつっこさを示すフランシス。自分の心の傷を広げる可能性を認めながらもフランシスに近づかざるを得ないオリヴィエ。二人のバランスは果してどうなるのか…極めてミニマムな設定/撮影の中で、最後まで引き付けられていく。
■全てをフランシスに明かした後に、「話がしたいんだ」と言ったオリヴィエ。「憎しみ」「真相を知りたい」「同じ喪失者として、心を開く相手が欲しい」「失った存在の変わりとしてお前を求めたい」・・・様々な思いが入り混じった、救済を求める叫び。そしてその叫びに答え現れるフランシスの姿もまた脆く孤独だ。ダルデンヌ兄弟の監督出世作イゴールの約束』と同様この映画も、”世界に二人きり”となった主人公たちの決意を静かに見守るシーンで締めくくる。
■クライマックス前、製材所内で男と少年が木材を肩に担いで運ぶシーンも忘れられない。男の足取りに遅れぬよう、少年も歩調を合わせて歩く。ひとつの木材の両端を担いでいる二人の距離は近づきすぎることもない変わりに遠ざかることもなく、少年が男の背中を見つめるかたちで同じ方向に同じ速さで二人が進んでいく。まるで、この姿が二人のこれからの”共に生きていくかたち”を暗示しているようで。