『ヘヴン』

【解説】(allcinema ONLINE より)
トリコロール」三部作などの巨匠クシシュトフ・キエシロフスキーの遺稿脚本を「ラン・ローラ・ラン」のトム・ティクヴァ監督がケイト・ブランシェット主演で映画化した、一組の男女の運命的な愛を描いたラブ・ストーリー。共演は「ギフト」のジョヴァンニ・リビシ。破滅へと向かう男女の愛の逃避行が静かに緊張感溢れるタッチで綴られる。
イタリア・トリノ。英語教師のフィリッパは高層ビルに忍び込み時限爆弾を仕掛けた。彼女の目的は一人の男を殺すこと。彼女の愛する夫を死に至らしめ、大切な教え子たちを不幸へと導いた麻薬密売人。フィリッパはこれまで何度も男を逮捕するよう憲兵隊に訴えたが相手にされず、自ら行動に出たのだった。やがて、彼女の自宅に憲兵隊が突入する。彼女は抵抗することもなく憲兵隊に捕えられる。憲兵隊での取り調べが始まると、フィリッパが英語しか話そうとしないため、その場に書記として同席していた新人憲兵フィリッポが通訳を買って出る。尋問が進む中で、フィリッパは男が死を免れ罪なき4人が犠牲になったことを知らされ、ショックのあまり気を失ってしまう。フィリッポはそれを為すすべもなくただ見つめていた…。
静謐にして濃密、寡黙でありながらなんとも豊かな心の交流。後半、トスカーナの美しい風景の中で展開する二人の逃避行は、無駄な音楽を極力廃してどこまでも静かに(二人が踏みしめる砂利の音がこんなにも愛しいものだとは!)緊張感たっぷりに、それでいて優しさと温もりをもって描かれる。主演の二人が、抑えた演技ながら内面から滲み出る感情を見事に表現して素晴らしい。また、出番こそ少ないものの、世間知らずで純粋な我が子を優しく見守る父親を演じたレモ・ジローネも印象深い。観る者の心に強く深く迫る感動作。そしてまた一つ映画史に残る名ラストシーンが誕生した(かなり強引なんだけど…)。

■ラストシーンで天界へと消えていくヘリコプター、エンドロール、暗転。その間、ずっと泣いていた。トム・ティクヴァといえば『ラン・ローラ・ラン』のマンガチックなイメージしかなかったため、彼がキシェロフスキの脚本を撮ることにミスマッチを感じていたのだけど杞憂だった。