FM395 見ずに死ねるか、ニッポン!15 市川崑特集



私たちは、まだ映画をよく知らない Vol.   伊原洋平
はい、皆様こんばんは。”クール・ドライ・スピーティ”な市川崑の世界へようこそ!
市川崑監督といえば、『細雪』『炎上』『野比』『破戒』など文芸作品ばかり作る巨匠監督だと、何となく思っていたのですが、先日サロンシネマでレイトショー上映をした『黒い十人の女』の再公開から、若い人たちの間で市川崑映画の”再発見”がちょっとしたブームのようで、見てびっくり!とてもモダンでおしゃれでカッコイイ!
市川崑監督の作品は、実にバラエティに富んでいて、メロドラマあり、アクションものあり、風刺喜劇あり、ソフィスティケーテッド・コメディ(風刺でない、おしゃれな都会的喜劇)あり、シリアスな心理劇的ものあり、とにかくまあいろーんなタイプの映画を作っているのです。フィルムグラフィーをご覧のとおり、今まで70本以上映画を撮っている職人監督、それにもともとはアニメーション映画の演出をしていた人なのですから驚いてしまいます。
先日亡くなった、世界に誇る日本の巨匠、黒澤明監督とは、ほどんど同期で、友人でもあります。
市川崑監督自身、映画が大好きで、いろんな映画をたくさん観ていることもあってか、映像テクニックがすごーい!凝ってる!ので、しっかりご覧下さいね。新作は『どら平太』。その他に、紙芝居映画!?の『新選組』もあるそうで、公開が楽しみですね。今年で83歳。ますますお元気でガンバッてほしいものです。

・喧嘩ばかりしているが、仲の良い姉弟げんと碧郎。重苦しい家庭の空気に反発する碧郎は、外で悪さをくりかえす。げんは、そんな弟が気になって嫁にも行かない。だが弟が結核を発病して…。
『炎上』『東京オリンピック』と並ぶ市川崑の詩情あふれる代表作。この後崑映画のヒロインにたびたび抜擢される岸恵子との発顔合わせでもある。懐かしい時代の感じを表すのにカラーをモノクロ調に見せる”銀残し”というテクニックが使われている。

・古美術鑑定家の剣持は老いに苦しむ。一計を思いついた彼は妻・郁子を風呂場でのぼせさせ、娘の恋人・木村に解放を頼む。剣持は夫婦の間にわざと三角関係を作ることによって若返りを図ろうとしたが…。
谷崎潤一郎原作とはだいぶストーリーを変えてあるのでご注意!間男役?の木村には仲代達矢、黒澤作品とはひと味違う陰湿なキャラクターを好演。

ルポライターの北長子は、ニセの失踪事件をおこしてそのルポを書くことに。ところが銀行の横領を企むグループに事件を悪用されてしまった。犯人の濡れ衣をきせられた長子は、因縁浅からぬ元巡査の鳥飼に助けを求めるが…。ミステリ好きの市川崑が最初に犯人をばらす『刑事コロンボ』スタイルを狙う、時代を先取りした一本。『鍵』の妖艶な人妻から一転、京マチコが追手をまくため”七変化”を楽しげに見せてくれます。

・趣味で小説書きをしている大学助教授の鳥羽は、バリバリのキャリアウーマンの妻・近子に頭が上がらない。突然妻の姪・アコが家出をしてきた。ハチャメチャな性格のアコは鳥羽家に居座り?静かな生活をかき乱すが…。
ラジオドラマ原作のファミリードラマも市川崑の手にかかるとこんなにモダンなコメディに早変わり。アコ役の久我美子は絶品!『浮き雲』等の森雅之のダメ亭主ぶりがこれまたいい味。

※枠内の文章は当日プログラムからの転載です。
『おとうと』のラストシーンの岸恵子のアップの表情が(よく理解できなくて)怖かった。
この一昨年前に『八つ墓村』(トヨエツ金田一)を封切で観たのですが、…だったです。
(07.03.05)