ウォーク・ザ・ライン 君につづく道

【解説】(allcinema ONLINEより)
ボブ・ディランをはじめ数多くのミュージシャンに多大な影響を与えたカントリー・ミュージックの伝説、ジョニー・キャッシュの波乱に満ちた半生を映画化した感動のヒューマン・ラブストーリー。ドラッグから奇跡の復活を果たしたキャッシュと、彼の2度目の妻となるジューン・カーターとの10数年におよぶドラマティックな愛の軌跡を情熱的に綴る。主人公の2人を演じたホアキン・フェニックスリース・ウィザースプーンは、劇中の歌のシーンも全て自分たちでこなす熱演を披露、各方面から絶賛された。監督は「17歳のカルテ」「“アイデンティティー”」のジェームズ・マンゴールド
綿花栽培の小作で生計を立てる貧しい家庭に生まれたジョニー・キャッシュ。酒に溺れ、暴力を振う父に怯える毎日だったが、そんな彼の心の支えは優しい兄ジャックとラジオから流れてくる少女ジューン・カーターの歌声。ところがある日、その最愛の兄が事故で亡くなってしまう。父はお気に入りのジャックのほうが死んだことを嘆き、そのことがさらにジョニーの心を深く傷つける。やがて成長したジョニーは2年の軍隊経験を経て初恋の女性ヴィヴィアンと結婚、訪問セールスの仕事に就く。しかし仕事はうまく行かず、趣味のバンド演奏をまるで理解しないヴィヴィアンとの間にも溝が深まるばかり。その後、プロのミュージシャンとなったジョニーは、全米中をツアーする中で、少年時代の憧れ、ジューン・カーターとの共演のチャンスを得るのだった。

■巡業先のステージを通じて知り合った男と女。二人はそれぞれ私生活上のパートナーとの関係に悩み、また自分自身を見失っていた。そんな二人が、生業とする「歌」を通じて結ばれることは時間の問題だった。ミッシング・ハーフに巡り合えたことを確認しあうかのように見つめあい歌いかけるデュエットシーンが見もの。劇中では年代をおいて都合三回、ステージでのデュエットシーンが描かれる。一回目、二回目ともそれぞれ二人の思いは重なりそうになりつつも、互いのパートナーの存在がそれを阻む。三回目のデュエットシーン。歌の最中でいきなりホアキンがリースに正式なプロポーズをし、ステージ上で二人は結ばれる…しかし肝心のデュエットはどっかに行ってしまった。ここはぜひ結ばれた二人に高らかに歌ってほしかったよ(たとえ実際にそんなことはなかったとしても)。
■亡き兄とは対象的に、なんだかすっかり屈折した役柄イメージのホアキン・フェニックスも良いけれど、それ以上にリース・ウィザースプーンの存在感が素晴らしい。TVで放映されていた『キューティ・ブロンド』をそのつもりはなかったのに「なんか演技度胸のすわったねぇちゃんだなー」と感じてついつい最後まで見てしまったのだけどここまでとは。ただ、今作で実年齢よりも年増な印象がついてしまったのが今後どう影響するのか。

■観たのは土曜日の夜だったけど、思ったよりお客は多くなかった。ドキュメンタリーにせよ再現ドラマにせよ、実在のミュージシャンを題材にした映画はその対象を知らない人の足を劇場に向かわせることは難しい。ゴールデン・グローブ賞で本作は”ミュージカル・コメディ部門”でノミネート/受賞されていたけど、どう見ても”ミュージカル”でも”コメディ”でもないでしょ、”ドラマ”でしょ。

■思うに優れたデュエット曲とは、男と女の魂が絡み合い昇華していく様が音楽というかたちで凝縮された芸術作品だ。であれば、優れたデュエットシンガーの物語は優れた魂のドラマであるはず。是非ともアメリカ映画界は、マーヴィン・ゲイとタミー・テリルの物語を映画化してほしい。たとえハッピーエンドでなくとも、記憶に残したい愛と歌がそこにあるはず。