『チャーリーとチョコレート工場』

解説】(allcinema ONLINEより)
ロアルド・ダールの世界的ロングセラー児童書『チョコレート工場の秘密』を、71年のジーン・ワイルダー主演「夢のチョコレート工場」に続いて2度目の映画化。監督・主演は、これが4度目のコンビ作となるティム・バートンジョニー・デップ。一風変わった経営者に案内され、謎に満ちたチョコレート工場を見学できることになった一癖も二癖もある5人の子供たちが体験する驚きの世界を、イマジネーション溢れるヴィジュアルとブラックなユーモア満載で描き出す。
失業中の父、母、そして2組の寝たきり祖父母に囲まれ貧しいながらも幸せに暮らしている少年チャーリー。彼の家のそばには、ここ15年間誰一人出入りしたことがないにもかかわらず、世界一のチョコレートをつくり続ける謎に包まれた不思議なチョコレート工場があった。ある日、工場の経営者ウィリー・ウォンカ氏は、全商品のうち5枚だけに入っている“ゴールデン・チケット”を引き当てた者にだけ、特別に工場の見学を許可する、と驚くべき声明を発表した。そして一年に一枚しかチョコを買えないチャーリーも、奇跡的に幸運のチケットを手にし、晴れて工場へと招かれるのだが…。

マイケル・ジャクソン被告がメディアで取り上げられる時期、白面の変人が無垢な少年をおとぎの世界に案内するこの映画が公開されたのは恐らく偶然ではない。主役の二人は奇しくも『ネヴァーランド』というタイトルの映画で出会ったのだから何というか・・・。

■オープニングタイトルは、製造ラインをチョコレートが製造され出荷されるまでの流れを俯瞰やアップ、CGを織り交ぜたグラフィカルな映像で始まる。D.エルフマンの音楽のタッチの違いや、ラインを流れるのチョコレートではなくて”人造人間”という違いはあるものの、このタイトルデザインはバートンの『シザーハンズ』を連想させる。

■チョコレート工場の主・ウォンカの、”幼い頃に親の愛に恵まれなかった故に世間の親子像に対する歪んだ反応を示す”という設定は『バットマン リターンズ』のペンギン(D.デビート)のようである*1。また、”センシティブな主人公と、主人公だけの世界を無神経と暴力により侵食する他者”というテーマは前述の『シザーハンズ』と共通であり、主役2人に相対する小憎らしい子役キャラは、『シザーハンズ』でも描かれたエゴむき出しの一般市民(サバービア)代表だ。ただし本作では、ネヴァーランドの中でわがままに振舞う彼/彼女らに対しては、カリカチュアされてはいるが「身勝手なガキはどうなっても自業自得だ」とばかりに攻撃的で惨酷なお仕置きが待っているのだが*2
ロアルド・ダールによる原作のテイストとバートンの引きこもり的特性とのコラボとなった本作だが、チャーリーがウォンカとその父親との再会に一役買い、チャーリー一家が工場に移り住むラストは原作にはないバートンのオリジナル脚色である*3。”すれ違っていた父親との和解”というモチーフは、バートン自身が体験した父親との死別という出来事に由来していることは間違いない。それが色濃く反映されているのがバートンの前作『ビッグ・フィッシュ』となるのだが、『ビッグ〜』における主人公と父親との和解は、主人公が父親と同じ目線に立つことにより空想世界が現実と同化していく鮮やかなカタルシスがあったのに対して、本作におけるウォンカと父親の和解は、「まぁ家族も悪いものではないらしい」という程度の変化(成長)しかウォンカに与えず、観ているほうもどこかぎこちない気分になる*4。その後かろうじて自分の家族をウォンカに認めてもらったチャーリーは、棲み家のボロ屋敷ごと工場内の箱庭世界の中で幸せに?暮すことになりました…で映画はエンド。

■そもそも、ウォンカやウンパルンパによる他の子供たちへの惨酷な仕打ちに顔色を変えるでもなく傍観しているチャーリーのキャラクターも謎である。チャーリーとその家族の描写は、登場するバカ親子組と対比させる上でも”清貧”を絵に描いたような扱われかたではあるが、内心ではウォンカのお仕置きぶりに共感しているように思える。何しろ、映画のラストは「この社会には何も期待するものはない」と言わんばかりに、貧乏屋敷丸ごと工場内のネヴァーランドに引越ししてしまうのだから。

■映画としては、アレックス・マクダウェルによる美術デザイン、D.エルフマンによるにぎやかしい音楽、そしてブラックなエンディングによる、健全なお子様向けファンタジーに対抗するような毒気たっぷりの楽しい悪夢世界が堪能できる一品。

チャーリーとチョコレート工場 [DVD]

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*1:巨大なピンクのタツノオトシゴの船で川を下るウォンカの姿は、アヒルの船でゴッサム・シティを下るペンギンのカットによく似ている。

*2:ウォンカの意を介し、群れを成して不気味で無邪気な動きを見せるウンパ・ルンパ達の姿は『マーズ・アタック!』の極悪火星人を連想できなくもない。

*3:原作は、チャーリーと祖父、ウォンカを乗せたジェットエレベーターがチャーリーの家に着陸し、チャーリーが家族に対して工場への引越しを薦めるところまで。なお、本作の脚本(脚色)は正確にはJ.オーガストでありバートンではないが、バートン解釈と言ってよいだろう。

*4:さすがにウォンカと父親とを完璧に和解させると、まんま『ビッグ・フィッシュ』になってしまうのでそれはバートンも意図的に避けたのかも。どっちにしてもエピソードが消化不良の感があった。