FM496 岡本喜八監督・追悼上映(2月19日死去・81歳)

■監督が無くなったことはその当日、横川シネマ掲示板に溝口支配人がお悔やみ文を載せていたことで知った。少し飲んでいた勢いもあり、サロンシネマの掲示板に「追悼フィルマラをやってください」と速攻で書き込む。
■と言っても、偉そうに語れるほど監督の作品を知っているわけではない。ロードショー作品で観に行ったのは『EAST MEETS WEST』のみ、『大誘拐』はビデオで。10数年前に(溝口支配人が企画した)サロンシネマのフィルムマラソンで『独立愚連隊』『ああ爆弾』『殺人狂時代』等を観て、うわーすげぇ!と思ったのだが、その当時の感想/感覚なんて“通好みの映画を観てそんな風に思っている自分がスキ”時代の感覚だからあまり宛にはならないのだが…。
■とにもかくにも、サロンシネマ側も速攻でフィルマラを決定させ、掲示板の上には名指しで「どうぞお越し下さい」と書かれてしまった。〇年ぶりのフィルムマラソン(オールナイトイベント自体は昨年の篠崎誠ナイトがあったけど)なので少しためらいもあったけど、発起人が行かないのでは申し訳たたん。相方と出かける。
■行ってみたら、やはり人は少なかった。二十人くらいか?フィルムマラソンのプログラム表はA4見開き2ページ 色紙ずりなのは全く変わっていないが、中の作品紹介がすべてPC活字になっているのがちょっと淋しい。手書き+味のあるイラスト付きのほうがよかった…。それでも一つ一つの作品についての紹介は、短いながらもきちんと見所が紹介されている。せめてこの紹介文章をホームページに上げていれば、客の入りも違ったのかもしれないのに…。
■しめて5本、堪能させて頂いた。以下、上映順ではなく、発表年代順に感想を。

『日本のいちばん長い日』
■ジェットコースターがカタカタと最高地点を目指していくかのように、前半1時間半はテンションが次第次第に上がっていき、「首チョンパ」から残り1時間、ぐわんと終末に向けて突き進んでいくポリティカル・サスペンスの傑作。私の頭の中ではARBの『BAD NEWS』が鳴りつづけていた。
■JFK暗殺もキューバ危機もシルミ島事件も映画化されたものを見て「面白い」と感じたけど、この映画は「面白い」だけでは済まされない。今から60年前、私たちが今生きている「日本」という国がどうやって産まれたのかを私たちは知らないといけない。このような内容の作品が商業的にも成功を収めていた当時がある意味うらやましい。

日本のいちばん長い日 [DVD]

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『肉弾』

【解説】(allcinema ONLINE より)
「独立愚連隊」「日本のいちばん長い日」の岡本喜八監督による戦争ドラマの傑作。特攻隊員となった若者が作戦遂行直前に与えられた一日だけの休日に体験した瑞々しい出来事を通して戦争の愚かさとそれによって踏みにじられた幾多の青春への思いをコミカルなタッチで痛切に描く。
 昭和20年夏。“あいつ”は魚雷をくくりつけたドラム缶に入り、太平洋上に浮かんでいた。特攻隊員のあいつは一日だけの外出で色々な人たちに出会った。古本屋の老夫婦、砂丘で知り合った兄弟とおばさん。参考書を持った美しい少女とは、やがて防空壕の中で結ばれた。しかし、その少女は空襲で死んでしまった…。あいつは魚雷と共に復讐へ向かった。そして、ついに敵らしき船を見つけた。

■どこまでが岡本監督の実体験なのか存じ上げないが、監督の一連の映画の通低音である”あの戦争を生き残ってしまった者”の心の叫びは今も太平洋上に響いている。北林谷栄は23年後の「大誘拐」でも変わっていないのが凄い。砂浜のロケは監督の生まれ故郷の鳥取砂丘?そのせいだけではないけど、この映画を観ながらの脳内イメージアルバムはARBの『砂丘1945年』。

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大誘拐 RAINBOW KIDS

【解説】(allcinema ONLINE より)
「独立愚連隊」「ジャズ大名」の岡本喜八監督が、3人組の若者に誘拐された老女が、それを逆手に若者たちを手玉にとって事件に関わる人々を翻弄するさまを描いた痛快コメディ。ある夏の日。大富豪の老女が3人の若者グループによって誘拐される。誘拐の報に、老女を生涯最大の恩人と慕う凄腕の警部が捜査に乗り出す。一方、誘拐犯が要求しようとしていた身代金が5千万と知った老女は激昂、百億にしろと言い放ち、3人を従え、自ら身代金強奪の指揮をとり始める……。主演の北林谷栄が快活で人間味あふれる老女を好演、この年の映画賞を総ナメした。

風間トオル他若衆トリオの演技、安っぽい打ち込みの劇伴歌は今見ても相当キツイ…しかし話が転がり出せば愉快痛快。
■物語のスタートが8月15日、戦争で亡くした子供たちの写真を見つめる北林谷栄で始まる。この映画の時に既に監督は65歳。同じ年代の人々に向けて送った”人生を我が手に奪い返すため”のファンタジー。同じテーマで表裏をなす映画として篠崎誠監督の『忘れられぬ人々』(’01)を見返したいところ。

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助太刀屋助六

【解説】(allcinema ONLINE より)
大御所・岡本喜八監督が「EAST MEETS WEST」以来6年ぶりに手がけた作品は、仇討ちの助太刀を生業とする男が主人公というコメディ・タッチの時代劇。出演は「EAST〜」に続いて登場の真田広之鈴木京香仲代達矢という面々。「ジャズ大名」でも岡本喜八とコンビを組んだ山下洋輔のジャズが全編を彩る。
 故郷を捨てて江戸を目指していた助六は、旅の途中に巻き込まれた仇討ち騒動で助太刀をする羽目になる。だが、お礼として多くの報酬を受けたことから助太刀家業を思いつく助六。諸国をめぐり、他人の仇討ちに首を突っ込んではお礼をいただくという生活が始まった。やがて7年の月日が流れ、多少の蓄えを手に故郷に戻る助六だったが、そこでまさに仇討ちが行われようとしていた。だが助六の期待も空しく、仇討ちの助太刀がすでに二人もいること知る。出番を失った助六が昔馴染みの棺桶屋に行くと、そこに当の仇討ち相手がいたのだが……。

真田広之の軽妙なC調キャラが、監督の演出に応えている水を得た魚のように活き活きとしていて見ていてなんだか嬉しい。しかし仲代達矢が劇中退場したころに力尽きてソファーのひじかけに体を預け倒れこんだ…。

助太刀屋助六 [DVD]

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今年はじめにこうの史代の『夕凪の街 桜の国』を読んでから、自分の中のキーワードは「戦後日本」。あれから60年、あの時代のことを教えてくれる人々がどんどんいなくなってしまう中で、「追悼」というかたちで岡本監督から申し送り事項を頂いたような気持ちになった。
作品選択については黄金期のコメディ/アクション系が入っていないのが淋しい気もしたが、最大のヒット作・遺作・ルーツ作が取り揃えたラインナップであることにまた別の意味があったと思う。
監督の作品を、そしてこの時代の映画をもっと見たい、もっと書きたい!!・・・しかしこれからはもう、こんな「追悼」という形でしか、映画館で往年の名作/娯楽作を見ることはできないのだろう…。