『パッチギ!』

【解説】(allcinema ONLINEより)
ゲロッパ!」「岸和田少年愚連隊」の井筒和幸監督が60年代の京都を舞台に描いた青春群像ドラマ。ザ・フォーク・クルセダーズのカバーでも知られる朝鮮分断の悲しみを歌った名曲『イムジン河』をモチーフに、騒動を巻き起こす日本と在日朝鮮の高校生たちの恋や友情を熱く感動的に綴る。なお、タイトルのパッチギとは、ハングル語で“突き破る、乗り越える”という意味。また“頭突き”の意味も持つ。
1968年の京都。東高校2年の松山康介はある日、担任の布川先生から指示を受け、常日頃争いの絶えない朝鮮高校へ親善サッカーの試合を申し込みに行くハメになった。そして、親友の紀男と共に恐る恐る朝鮮高を訪れた康介は、音楽室でフルートを吹くキョンジャという女生徒に一目惚れしてしまう。間もなく彼女の兄が朝鮮高の番長アンソンであることも知る康介。それでも彼はキョンジャと仲良くなるため、楽器店で知り合った坂崎からキョンジャが演奏していた『イムジン河』という曲を習い、彼女の前でギターで弾こうと決意するのだが…。

■『ガキ帝国』も『岸和田』も、『のど自慢』も『ゲロッパ』も観ておらず、こちらでは『虎の門』も放送おらず、井筒作品を見るのはこれが始めて。カット割りのテンポはダルくなる一歩手前で踏みとどまっている感があるのだけど、それは俳優に対しての”視線の丁寧さ”の表れだろう。ドラマ臭さが鼻につくような御座なりな台詞も殆どなく、結果として主要なキャラの誰にでも共感させてくれる手腕が井筒監督の味なのだろう。

■主要キャラの殆どが生き生きとしているだけに不満が感じられたのが、大友康平演じるラジオ局ディレクターのキャラの掘り下げ方である。要注意歌謡曲である”イムジン川”を放送するという、康介やアンソンと同じ「川を渡る」キャラの一人なのだけど、なぜディレクター生命を賭けてまでして”イムジン川”にこだわるのかが描かれていない。単なる”志あるディレクター”という暗黙の了解で済ましてもよいだろうが、その直前のチェドキの葬式のシーンで辛辣な言葉にボロボロになった康介の背中を後押しするためには、もっと説得力のある設定がないと力不足だし、川での乱闘/葬儀のシーンに”イムジン川”が響くシーン自体が軽く感じられてしまうのだ。

■まぁ、その辺りを差し引いても、康介がアンソン一派/家族と親交を深めていくプロセスは気持ちよく見守れたし、何よりも某前田有一のようにこの映画について偉そうに政治的に語るようなことはしたくない。作中でも描かれているように、少なくともこの時代は立呑み屋で一杯やりながら仕事帰りのおっちゃんらが戦争や政治のことを語っていたのだ。

パッチギ! (特別価格版) [DVD]

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