『PLANET OF THE APES 猿の惑星』

【解説】(allcinema ONLINEより)
そのユニークな設定と衝撃のラストでSF映画の金字塔となった68年作品を「シザーハンズ」「バットマン」のティム・バートン監督が再映画化。リメイクを超えたリ・イマジネーション(再創造)として甦る。西暦2029年。惑星間の偵察を行っていたスペースステーション、オベロン号は、宇宙空間の異常を認め、チンパンジーパイロット、ペリクリーズが偵察に向かう。しかし、彼はそのまま消息を絶っていまい、宇宙飛行士レオは彼の後を追って偵察ポッドに乗り込む。しかし、彼の乗ったポッドは謎の惑星に墜落、なんとか脱出したレオだったが、彼はそこで猿に人間が支配されている光景を目のあたりにするのだった……。

■オリジナル第一作目のプロデューサーでもあるリチャード・D・ザナックのもと、O.ストーン、J.キャメロン等、数々の監督の名前が企画書に上がりそして消え、最終的に選ばれ(残っ)たのはティム・バートン。あくまで彼は雇われの身なのだから、過度の「バートンらしさ」を期待してはいけない。“猿が人間を支配する惑星”というオリジナル版の設定だけを活かし、「抑圧された人々を開放する、異国からやってきた英雄もの」の映画である。(音楽はバートンの盟友、D.エルフマン。荘厳なテーマ曲をバックに甲冑の文様、猿文化のオブジェ等が映し出されるタイトルロールはなかなかよかった。)
■作品の出来ばえはどうかいうと、娯楽映画としてのレベルは水準を保っていると思うのだが、「鳴り物入りの夏の大作」としては、どこか物足りなさを感じてしまうのが正直なところだ。主役であり、ヒーローである(はずの)人間・レオ役を演じるM・ウォールバーグに今一つ“華”がない。人間側のヒロイン、エステラ・ウォーレンが彼に惚れるだけの見せ場くらい作ってやるべきなのにそれらしきアクションもなく、映画を見に来た観客は誰に感情移入すべきなのか、戸惑ってしまうのが欠点。
■だがよくよく考えると、バートンの前作『スリーピー・ホロウ』では、事件を解決すべき主人公イカボット(J.デップ)が実はただのヘタレ役であることに途中で気づくことで、首無し騎士(レイ・パーク並びにC.ウォーケン)の格好よさに目が行くようになった。あるいはバートンの名を一躍有名した『バットマン』シリーズでも、神経分裂症気味の大富豪=バットマン(M.キートン)よりもJ.ニコルソンやM.ファイファー、D.デビートらのヒール役が活き活きしていたではないか。
■となると本作も、主役のウォールバーグより、物語上の悪役であるゼイド将軍が、主人公以上に生命感あふれるキャラクターとして描かれていることに納得がいく。下等な人間ふぜいに、さらには惚れた相手(チンパンジー:H.ボナム.カーター。どんな顔だっけ?)にも面目をつぶされ、衝動に駆られ怒り狂い暴れ飛び跳ねる強暴な姿(*1)。猿メイクのために「眼」の部分しか判らないが、屈折したキャラクターをまぎれもないT.ロスが好演(*2)。

■本作の一番の論点、「オリジナル作を越える驚愕の結末」だが…そんなものはない(*3)。ラストに”○○○の像を目にして呆然とするウォルバーグ”、という描写が確かにあるにはあるが、あれは単なるエピローグである。(*4)
■このエピローグを巡り、既に巷で「期待して見て損した」「所詮オリジナルを超えられない」といった悪評が飛び交っているのだが、それはこの映画の売られ方にも問題があったと思う。『パール・ハーバー』『A.I.』といった大作・話題作がひしめく乱戦模様の中で、話題づくりのために「今回の結末はすごいよ〜」というポイントを売らざるを得ない。その結果、結末以外の部分(=映画全体)に対する正当な評価がなされない(*5)。これは作り手にとっても、結末の評価だけを耳にしてこの映画を見ることなく終わる人にとっては不幸なことだ。
■でも、ひょっとしたら、そんなことを話題(問題)にしているのは、「オリジナル版を知っている一部の映画ファン」だけなのか?オリジナル版を知らない、ごく普通の(例えば、年に1、2回程度しか映画を見ない)人々にしてみれば、どのようにこの映画は映ったのだろう?



*1:跳ねまわって照明とかぶっ壊して、「すまん。取り乱した」…って、上島竜平か?
*2:オリジナル版での主人公を演じたC.ヘストンが、死に行くセイドの父親役を演じている。死に際の親子のやりとりのシーンは、両者とも猿メイクなのだが、二人の名役者の「素顔」のイメージが浮かんできた。
*3:替わりに「驚愕のクライマックス」というものがあるが…猿と人間の全面戦争にピリオドを打つ「あるもの」が登場するシーンで、客席は驚愕(っつーか失笑)してた。私はその阿呆らしさに喝采を送ったけど。
*4:エンドロールの後にあのカットを持っていったほうがよっぽど”粋”だとは思うが。ちなみにあのカットはオリジナル版の映画ではなく原作小説のラストを踏襲している。